サルによる被害

サルによる被害

生態を知って賢く防ごう 鳥獣による被害2 サル編

近年深刻な状況にある農作物の鳥獣被害。なかでもサルによる被害は43都道府県で報告があり、被害総額は約15億円にのぼります(農水省調べ)。そこで今回は、鳥獣被害対策で多くの実績を上げている奈良県農業技術センター・高原農業振興センター所長の井上雅央さんに、サルを中心とした基本的な自衛方法についてお話をうかがいました。

何とかしなければならないのはサルではなく畑です

「今までの鳥獣害対策は、何かと〝動物駆除〟の方に注力されがちだった」と話すのは、奈良県農業技術センター・高原農業振興センターの井上雅央所長。被害に遭った農家からの「サルをどうすればいいの」という叫びに対して、通常の対応策といえば畑を立派な柵で囲ったり、ハンターに駆除してもらう方法。しかし、それでもサルが減らない現実を、井上所長は次のような関係にたとえます。

「畑とサルを、台所とハエだと思ってみてください。台所に魚の頭が落ちていなかったら銀バエは来ないし、古くなった果物がなかったらショウジョウバエは来ません。どちらも置いていない台所では、ハエが通ることはあるけれども、とどまることはないでしょう。つまりハエがとどまる台所には、ハエが大好きな餌があるのです。ではそんな台所でハエ対策をしたらどういうことになるか? ハエタタキか殺虫剤を持って、永遠に戦い続けることになるのです」

つまり、最初に何とかしなければならないのはサルではなく、サルを寄せつける餌場、すなわち畑の方だというのです。

サルの立場で見れば集落全体に餌がある

大部分のサル被害は「見逃しから始まる」と井上所長は指摘します。例えばある日、集落に1匹のサルがやってきて、柿の木から実を1、2個盗んでいったのを、家にいたおばあちゃんが何も言わずに見ていたとします。これをサルの立場から見るとどうでしょうか。〈ここは誰にも怒られず、怖い思いもせずに餌にありつけたので、自分たちの群れにとっていい餌場である……〉ということになりませんか。

「つまり、集落の中には人間にとって『腹の立つ餌』と『腹の立たない餌』の2種類があるのです。腹の立つ餌はこれから収穫しようとしている農作物、腹の立たない餌は、出荷する必要がなく、自分たちも食べないもの。したがって、人間は腹の立たない餌によって、サルを無意識に餌づけしているのです」

柵の固定観念を取り払いみんながサルの敵になろう

畑は餌場のほんの一部分にすぎない、ということが分かれば、その周りだけを柵で囲うのでは不十分だということは明らかです。そこで「集落単位でどこまで守るか、境界線を検討しましょう」と井上所長は提案します。

具体的には、本玉の収穫が終わった後の糖度が落ちたスイカはすぐにつぶしておく、墓にお供え物を置かないなど、境界線内の餌をなくす「ソフト面の改善」。さらに、サルを見つけやすいように畑の畝立てをしたり、サルが逃げるのに都合のよい大木を切るなど、自分たちで守りやすい環境を作る「ハード面の改善」が必要となります。

いつも満腹になれる集落と、十分に食べられない集落とでは、サルにとって「餌場としての快適さ」が異なります。柵は、こうした「食べられなかった」という苦い経験値を増やすためのものとして十分活用できるそうです。手順を踏んで「人間は手ごわい」「集落の全員が敵」ということを、サルに分からせることが大切です。

鳥獣害対策は、サルもシカもイノシシも基本的には変わらず、集落内で餌を見せないことが肝心です。被害に遭ってしまったら、一番にやるべきことは「今、畑で起きていることを素直に見ること。そうすれば後の対策はサル自身が教えてくれる」と井上所長は言います。柵の設置や駆除などの方法は浸透していても、鳥獣害発生の基本的な情報はまだまだ少ない状況です。こうした情報を集落全体で早めに共有し、みんなで守れる畑を作っていきましょう。

サル対策の手順

  1. 基本的な情報を知ろう
    畑を見直し、集落内におけるサルの餌を知る
  2. 守れる畑・集落を作ろう
    餌をなくすなどソフト面の改善と、サルの逃げ場をなくすなどハード面の改善
  3. 棚や囲いを作ってみよう
    サルに苦い経験をさせ、餌場としての魅力を失わせる
  4. 駆除をお願いしよう
    それでも集落に執着するサルに対し、最終的な対応策をとる
『山の畑をサルから守るおもしろい生態とかしこい防ぎ方』

井上 雅央著 農文協刊1,500円

今回資料提供下さった、井上所長の著書
分かりやすい語り口で、サルに対する心構えや、今すぐできる具体的なアドバイスを紹介しています。

※この記事はJA広報通信12より転記しております